株式会社土屋念珠店の土屋社長に取材!

土屋 隆(つちや たかし)

株式会社土屋念珠店 代表取締役
生年:1964年

取材前、一つ一つの数珠を丁寧に紡ぎ合わせていく社長の姿を見た。1935年より代々続いている土屋念珠店。現在職人として、そして経営者として仕事をしている土屋社長はどのような変遷をたどって現在の仕事に行き着いたのだろうか。幼少期の頃から会社を継ぐことを考えていたのだろうか……?

子どもの時は会社を継ぎたくないと思っていました。理科系の仕事に就きたいって思っててね。

それはどうしてですか?

当時、科学捜査のドラマが流行っててね。単純にかっこいいと思って。

憧れますよね。どうしてその道に進まなかったのですか?

親父の根気に負けました。父親はどうしても私に継いでほしかったらしくて。私は二人いる弟に継がせたらいいって思ってたんだけど、「お前がやらないんだったら店をたたむ」とまで言われて。それを自分は望んでいなかったので、私が会社を継ぐ覚悟を決めました。

それで会社を継ぐことを決めたんですね!

高校を卒業したらそのまま会社を継ぐつもりだったんだけど、親父が大学を勧めてくれたんです。大学に行けなかった親父が、子どもには行かせたいという願いだったらしいんですけど、私は「それじゃあ、大学で遊びまくってやろう」と思い大学に入りました。

大学では実際に遊んでばっかりいたんですか?

実はそうでもないんです。4年間能楽に励みました。

のうがく(漢字が思い浮かばなかった)……?

そうです。日本の伝統芸能のね。

それはまたどうして……?

きっかけは可愛い子がいたからです(笑)。親戚にプロの能楽師をしている人がいてね、その人が外部より指導に来ていた師範だったんです。その人が「一度見に来い」と言うもんだから入部する気は全くなしに行ってみたんです。そしたら可愛い子がいて、それで入りました。

それは、師範の仕掛けですね(笑)。

そうかもしれませんね。でも、一生懸命やりましたよ。その子に振り向いてもらおうと思ってね。

その動機で4年間続けられるのはすごいですね。

実はその理由でずっと続けていたわけではなくて。ある時、同じ部活の同級生と飲んでいた時に「君は4年間をどう過ごす?」と聞かれて、その時に考えたんです。大学の4年間、何かをしても、しなくても、あっという間に過ぎてしまう。私はこの4年間を無駄にしたくない、とその時に思いました。それで今一生懸命やっているこの能楽に専念しようと思ったんです。

素敵な出会いがあったんですね!4年間能楽をされていて、土屋社長が変わったことは何かありますか?

いくつかありますね。一つは、困難に出会った時に自分の中で対処できるようになりました。それまでは漠然と、「大変なこと」と捉えていたけど、「これは乗り越えられる問題だ」とか「これは乗り越える必要ないだろう(誰かに任せよう)」という判断ができるようになりました。

それは経営されていく上で大事なことのように思います!

あとは人格そのものも変わった気がします。高校の時は化学部、生物部、SF研究会に入っててね、見るからに根暗そうでしょ(笑)。そんな無口でもやっていけたところから、能楽と出会って急に変わったわけです。練習で声が出なくなるまで声を出したり、合宿の夜に人前で裸になる経験をしたり……色々な経験をすることでかなり自分が変わった気がします。

立場が自分を変えたんですね。勉強になります!大学卒業後はそのまま会社を継がれたんですか?

そのつもりだったんですけど、祖父が他所の飯を食ってこい(他の業者で修行してこい)と言うので貿易商社に入社しました。

そこではどんなことを学びましたか?

その会社では最初から個々に役割が与えられるわけではないんです。中学の時に家業の手伝いをしていたんですが、その時の上司に教えてもらった言葉の一つに「人から与えられてするのは『仕事』ではなく『作業』」というのがありました。「(何するか)わからんかったら掃除してろ」とよく言われましたね。

会社に入ったら、自ずと役割が与えられるものだと思っていました。

そこから私は立場を作ることに精進しました。立場を作るにはどんなものでも良い。その会社で誰よりも自分が一番できると思えるものを作ることです。そうすると、周りから必要とされる。それが役割となっていくことをその会社で学ばせていただきました。

なるほど。役割ができることで、周りから頼られる存在になっていくのですね。

若い頃から様々な経験をされている社長が20代のうちにやっておいたら良いと思うことを教えてください!

失敗をできるだけしておいたら良いと思います。若い時の失敗はなんだかんだで許されるんです。まだ守ってもらえる立場にあるから。だからこそ、若いうちは自分でもちょっと無理かもしれないと思うようなことにも手を出して、盛大に失敗したら良いと思う。そして、助けてもらったことを頭の片隅で覚えておいてほしい。自分が助けてもらったから、次は自分が助ける。そうした循環が続けば良いなって思います。

勉強になります!ありがとうございました!

能楽部を通して鍛え上げた話術が取材の時にも垣間見え、お話を聞いててすごく楽しかったです。
自分の中で「これだけは誰にも負けない」と思えるもの、大学生のうちに一つ、持っておきたいですね。