北尾 和彦(きたお かずひこ)
京都薬品工業株式会社 代表取締役社長
生年:1946年
北尾社長の幼少期について教えてください!
幼少期の頃はね、理科が好きでした。その頃は父親が会社を経営していて、家と工場は1kmくらいしか離れていなくてね、よく工場に連れられて会社を見てましたよ。
その頃から会社を継ぐつもりでしたか?
親から直接「社長になれ」と言われたことはないけれども、私自身は小学生の頃から会社を継ぐつもりでいました。というのも、実は私には2歳年上の兄貴がいましたが、小学6年の頃に亡くなっているんです。父はいつも「兄が仏様となって会社や家族を見守ってくださっている」と、感謝と報恩の心を終生忘れませんでした。私は無意識のうちにその心を受け継ぎたいと思っていたのでしょう。
お父様から教えてもらったことで印象的なことを教えてください。
父は「和」をとても大切にしていて、多くのお米が一つに合わさったお餅の話をよくしていました。
「和」は、付和雷同ではなく、それぞれの個性が他の個性を活かし、互いに共鳴しながら調和を示す「個性が輝く強調」で、切磋琢磨しながら自分を研くことが大切です。
日本らしい、素敵な考えですね。そんなお父様から会社を引き継ぐ事になった時、プレッシャーはありませんでしたか?
2代目社長を引き継ぐというのは、子どもの頃より先代の苦労を見てきているので、大変な決意が必要でした。私が社長を引き継いだのは42歳の時でしたが、まだまだ若く経験もないので、果たして自分に社長が務まるのかという不安も多かったです。そんな時、亡くなった兄のご縁で父が信仰していた正行寺のご住職から、「父を乗り越えようと思う自分の傲慢な心を捨てなさい。父親というのは決して乗り越えられるものではない」と教えてもらい、それから心が楽になったのを覚えています。
親の偉大さを考えさせられます。社長として社員に接するときに心がけていることは何かありますか?
「社長」っていうのは肩書きであって、社長も社員も人間としては平等なんですよね。だから、接するときは一人の人間として接するように、言葉遣いや態度を意識しています。肩書きがよかったら人間も賢いと勘違いしがちですが、そうじゃない。肩書きと人間とを一緒にしてはいけない。その中で若い人には成長してほしいので、私がこれまで学んできたことや教えてもらったことを一つずつ伝えています。
どんなことを伝えているのですか?
新しく社会に出る人たちにはまず、なぜ会社で働くのかというのを説明します。私が伝えるのは2つのこと、「会社という社会の中で人間性をあげなさい」と「仕事を通じて社会に報恩しなさい」で、利益はその結果として得られるということです。
会社を通じて人間性を高める……
そうです。人間は一人では成長できず、会社という集団の中で人間性の向上に努めることが大切です。日本の思想の根幹となっている「和」には敬いの心がいるんです。会社の中でも自分に執着していたり、自分が一番偉いと思っていたら「和」って出てこないですよ。人間には知と愚の両面があるわけですが、普通はみんな賢く見せようとするんです。でもそれは自分に執着している証拠。そこに「和」は生まれませんよね。本当に賢い人は、内は賢にして外は愚となるのです。
「和」について、全然知りませんでした。
日本人はもっと日本のことを知ることが大切だと思います。国家の成り立ちの話や国歌、日本語の話とか知らないでしょ。例えば、「お母さん」はカッカと燃えるような太陽のような人、「お父さん」はトウトイ人ということで、言葉にも日本らしい大切な意味が込められている。そういうことを知っておくことが重要なんじゃないかと思うのです。今の日本人にはプライドやロイヤリティがない、という人がいます。それは自国の素晴らしさを教えないし、知らないからだと思う。日本はどこにも引けを取らない素晴らしい歴史や文化を持っています。だから私にできるせめてものこととして、そういうことは若い人たちに伝えるようにしています。
確かに、知らなきゃいけないことですね。北尾社長が今の若い人に伝えたいことはありますか?
今の若い人には、みんなから頼もしいと思われる人になってほしいですね。
「随所に主となれば、立つところ皆真なり」という言葉があります。「いつどこにいても、どんな立場でも何ものにもとらわれず、常に主体性を持って一生懸命行動すれば、もうそこには真実がある」といった意味です。大事なのは主体性を持つということ。自分が埋もれたらあかん。自分が他を活かせるような人にならなあかん。それには皆が賛成しないものを押し切って進めていくぐらいの勇気が必要です。それから、小さな自分の場所に閉じこもらず外に出て、一流の人と出会い、良い波動を頂くことも重要だと思います。
一歩前へ踏み出すと景色が変わり、今まで見えなかったものも見えてくるでしょう。今一度、歴史を振り返り、学んだこと、感じたことを今後のエネルギーにして明るく、元気に歩んでいってほしいと願っています。
北尾社長の若い人へ願う想い、「頼もしいと思われる人」になるための「随所に主となること」、一つ一つの生活で意識していきたいと思います!北尾社長、本当にありがとうございました!