有限会社匠弘堂の横川社長に取材!

横川 総一郎(よこかわ そういちろう)

有限会社匠弘堂 代表取締役
生年:1964年

京都には日本独自の伝統文化として脈々と受け継がれてきた社寺建築が多く残る。そんな伝統的木造建築を後世に残していくため、2001年に創設された匠弘堂。「何もしなくとも200年以上は建ち続ける美しい建物を遺していきたい」と横川社長は語る。横川社長は今の道にどうやって進み、どんな理由で道を決めたのか。大学生が気になる「道」について取材することができました。

自分の道を決めるきっかけとなる出会い

横川社長が建築を志すきっかけを教えてください!

私は、はじめからこの仕事を目指していたわけではなく、幾度かの転職を経て現在に至ります。元々ものづくりが好きで、大学では機械工学を学び、初めは家電メーカーに就職しました。そこで家庭用冷蔵庫を設計する部署に配属されました。少しイメージと違ったのは、大手メーカーでの設計はたくさんの人が関わっていることと、デザイン部門が設計と切り離されていて、デザインも含めて全てを設計できるわけではなかったことです。自分のやりたいことは本当にこれなのかという自問が日々頭の片隅にあり、どうしても少人数で設計できる業界に行きたいと建築業界へ転身したのです。

ここで建築業界に進むわけですね!

はい。たまたま求人が出ていた京都の建築設計事務所に面接を受けました。しかし、ここでもまだ揺れてしまうのです。

えっ!

仕事はそれなりに楽しかったのですが、その当時はマンションの設計ばかりでかなりのハードワークだったのです。フィジカルもメンタルもいっぱいいっぱいでした。(笑)

思い焦がれていた設計事務所の仕事だったのに、これは辛そう。

ある日お寺の本堂設計の担当になり、未知の領域だったのでがむしゃらに勉強しました。気が付けば他の社員が帰るのに目もくれず毎日職場の製図板に向き合い続けていました。その時「あれ、心の底から仕事が面白いぞ?」という不思議な感覚を覚えたのです。この瞬間、伝統建築の業界で一生仕事をしようと思いました。ただ私の周囲には伝統建築について師事する人がいなかったので、これをクリアするという問題は残っていましたが。

では、横川社長が起業する道を決心したターニングポイントっていうのはなんだったのでしょうか?

それは、私の生涯の師匠となる岡本棟梁との出会いです。とある寺院の庫裡客殿の新築設計を担当していた時に、実際に現場に来てくれた宮大工が岡本棟梁でした。現場で何回か会って疑問点を教えてもらううちにすっかり岡本棟梁の虜になり、この人とずっと一緒に仕事がしたい、この人に一生ついていきたいと思うようになりました。私は大工ではないので、どうしたら岡本棟梁をはじめとする宮大工メンバーにサポートやバックアップができるか、そして必要とされるかを考え抜いた結果、気づいたら会社を作っていたわけです。(笑)

すごい。(笑)岡本棟梁のどういったところに横川社長は惹かれたのでしょうか?

とにかく宮大工としての腕前が超一流なのはもちろんなのですが、例えば図面を一目見ただけで問題点を指摘できる超人的な眼力と技術力。無駄な動きが一切なくて、一発で獲物をしとめるという感じでしょうか。そして一つ一つの仕事に対する責任の持ち方と謙虚な姿勢を目の当たりにして、圧倒的なパワーとオーラを感じました。こんな人がいるのかと。
この人に会って、目が覚めました。初めて、自分のためではなく、人のために仕事をしたいと思うようになったのです。

そこからは迷いは無くなったのですか?

一切無くなりましたね。匠弘堂を設立して20年、岡本棟梁の意志と技術をしっかり受け継ぎ、日本文化の伝承と発展に貢献することを実践しています。

匠弘堂の名刺の裏には岡本棟梁の言葉が刻み込まれている

やりたいことを見つけるんじゃない、できることを見つけるんだ

ご経験を踏まえて、学生が自分のやりたいことを見つけるにはどうしたら良いのでしょうか?

なるほど。私も学生さん達と話をする中で、よくそのような質問を受けます。そもそもその質問をする人は自分のできることをきちんと認識できていないことが多いように思います。

どういうことですか?

逆説的ですが、自分の得手不得手に目を向けないまま「やりたいこと」を探すから、自分の本当にやりたいことが見つからないのだと思います。

……!?

したいことを探すのではなくて、できることの範疇で探すのです。よくあるのが「自分にはできるかわからないけど、とにかくやってみたいこと」で仕事を探す人。そういう人は大抵こう言います。「やってみなきゃわからない」。確かにそれはそうなのですが、それだけではいつまで経っても自分の「道」を決めることは難しいと思います。

考えたことなかったです。

不得意なことに挑戦すると結果が伴わないことが多く、自信を無くしがちです。反対に得意なことなら普通にこなす程度でも、想像以上に周りに評価されモチベーションが上がる。しかも世の中の役に立っていれば最高ですよね。それが結果的に自分の、自分だけの「道」になっていくのではないかと思います。

それでは、学生時代にすべきことはなんだと思いますか?

絶対やっておくべきことは、「自分は何が得意で、何ができるか」そして「何がやりたくなくて、何ができないか」というのをはっきりと明確にしておいてほしい。それができていない人が多いと思います。私はそれができていたので、設計図面というものから生きがいを見出し、人生の師匠に逢い、果たすべき道を歩んでいます。

どうやったらわかるんですか?

周りに聞くのが手っ取り早いかな。(笑)それと、自分よりも能力高い人と付き合ってみるのも一つかもしれませんね。

どうしてですか?

人間ってどうしても自己評価が甘くなるもんなんですよ。客観的にみたらうまくできていないことも自分ではできるって勘違いしたりする。自分よりできる人と付き合うと自分の能力レベルがわかります。「こいつのココには勝てないわ」って思うことが大事。そして、その逆も。「これなら勝てる」ものを見つけるんですね。

なるほど。

人生は選択の連続です。一つ一つの選択を正しく判断していくことが、自分の道を決めていくことにつながっていくのではないかと思います。色々な人と出会い、人脈を作り、失敗を恐れずに挑戦していって、自分の「道」を創っていってください。

一つ一つの受け答えが謙虚で丁寧な姿勢だったのが印象的でした。匠弘堂で実際に行っている類い稀な技術の一端を垣間見ることもできました。