手間をかけて生きる-廣瀬社長に学ぶ-

廣瀬 康二(ひろせ こうじ)

食道具 竹上 庖丁コーディネーター
生年:1970年

本日はよろしくお願いします!廣瀬さんは今、日本で唯一の庖丁コーディネーターとして活動されていますが、現在の職業に到るまでの経緯を教えてください!

大学生の頃、自分のやりたいことがずっと見つからなくて悩んでいました。そして当時付き合っていた彼女に相談したら旅行ガイドブック「地球の歩き方」を渡されて。初めは意味がわからなかったのですが、しばらくした頃に思い出してそれを見たら海外でワーキングホリデーがあることを知って行きたいと思いました。

自分のやりたいことを見つけるために海外に行かれたんですね!

そうです。当時はスキューバーダイビングのインストラクターの仕事をするためにオーストラリアへ行くことにしました。現地ではその仕事に就くまでは日本食レストランのアルバイトをしていました。その時、現地の人がお寿司を美味しそうに食べるのを見て、日本食ってすごいなって思いました。この体験は結構自分の中で大きかったですね。

それがきっかけなんですね。

その時のことを人生の夏休みだと捉えていました。そして、1年のワーキングホリデーが終わりに近づいた頃、日本に帰ってから何をしようかと考え始めました。スキューバダイビングでは2回死にかけているのでそのうち体が持たなくなる、一生やっていける仕事ではないと思ったのでやめました。次に思いついたのが食の世界でした。日本食を海外で見て日本の食文化の素晴らしさに気づき、それを届けてみたいと思いました。しかし、料理人って中学や高校を卒業してその道一筋でやっていく人が多いんですね。大学を卒業する自分がその道に入ってもやっていけないなと思いました。

そこで包丁に出会ったのですか?

そうです。陶芸家も考えたのですが、京都には沢山おられるなぁ……と。それで他に何かないかと考えた時に、食材に最初に触れ、食材を活かす包丁が思い浮かんだんです。そういえば、今まで包丁を売ってるところは沢山見たけど包丁を専門に扱っている人、包丁道みたいな方は見たことないと思いました。そこから包丁屋の門を叩きました。

確かに包丁を専門にやってる人間道って見たことないです。

そこから16年間修行させてもらい独立しました。今は店を構えて、日本で唯一の庖丁コーディネーターという肩書きでやらせてもらっています。庖丁コーディネーターというのはただ包丁を売るだけでなく、研いだり修理したりもしますが、一番大切なのは包丁文化を伝えることです。それを使命と考え、全国各地で包丁の公演などを行なっています。

どんな公演ですか?

例えば包丁で料理が一変するということを主婦の皆様に伝えたり、道具との向き合い方をお話ししたり……「手法」の話も「心」の話もしています。

その心の話が聞きたいです!

私には大切にしていることが3つあって、それが「ヒト・モノ・コトのご縁」、「京こころの伝心」、「本刃付けの維持と意地」です。

詳しく教えてください!

最初の「ヒト・モノ・コトのご縁」について、ヒトとのご縁というのは人が交わるということ。モノは例えば包丁だったり、食だったりが入ります。コトは例えばご飯を一緒に食べることであったりイベントをすることだったりを指しています。今こうして日野くんと私が話せているのもご縁のひとつです。ご縁は偶然だという人もいるけど、私はそうは思わない。ご縁には「タイミング」と「ハート」が必要なんです。「日程はいつも合うんだけど、なんか行きたくないな」これはタイミングは合ってるけどハートが合っていないということ。逆に「いつも会いたいのに日程が合わない」これはハートが合ってるけど、タイミングが合ってないということなんです。

ご縁を大切にするというのはそういったかけがえのないものを大事にすることなんですね。

そうです。今私たちが話しているこの空間を私たちは「食の間」と名付けていて、私はこの場所を“ご縁が生まれるところ”と捉えています。英語ではセレンディピティと私たちは説明しています。

確かに食は「何を食べるか」より「誰と食べるか」の方が重要ですよね。

「京こころの伝心」については、私が京都で生まれ育ったこともあり、ここで学んだ「京こころ」を伝えていきたい想いがあります。
例えば京都には「始末の心」というのが深く根付いています。これは決してケチということを言いたいのではなくて、余計なことにはお金をかけずに手間をかけるということ。

お金をかけずに手間をかける…

よく私が話すのは、包丁は「管理」するのではなく「守り(もり)」をするのだということ。これは包丁だけではなくて、人でも物でも言えることですが、管理と守りには明確な違いがあるわけです。管理というのは自分の都合でそれをお世話するということ。だけど守りは、同じ目線に立って心を寄せて見守るということなんです。

それがお金をかけずに手間をかけるということなんですね!

以前講演を行なった時に、ある大企業の社長が来られて、講演後に名刺交換をしました。私は「包丁は一丁二丁と扱うアナログの世界やけど社長はデジタルで一兆二兆を扱ってはりますやん、私から話すことなんてないですよ」と伝えました。すると社長は「デジタルの世界でも一つ一つに心を寄せてやりますよ」と言われました。そうすればデジタル機器も長く持つそうです。やっぱり「守り」という考え方は全部に共通しているように思うんです。子どもを見守る時もそう、包丁を扱う時もデジタル機器を扱う時も一緒なんです。

なるほど。

よく取材を受ける時に「調理器具を売ってはるんですね」って言われるんです。でもそれは違うんです。私は道具を売っているんです。調理器具と道具には明確な違いがあります。調理器具は料理人が備え付けている調理のための器材ですよ。これは自分の都合で使うので使えば使うほど痛んできます。けれど道具は違う。道具は管理するものではなく守りをするものなんです。だから寄り添ってあげると馴染んできます。道具は使えば使うほどよくなっていく。お金ではなく手間をかけるというのはそういうことなんです。

道具って奥深いですね…

最後に「本刃付けの維持と意地」について。本刃付けというのは、包丁に対して本来の切れ味になるように、新品や修理の包丁を研ぐ手仕事のことです。包丁をお買い上げいただいたお客さんに対して刃を合わせます。ただ切れるだけじゃなくて、使えば使うほど良くなる道具にしていくこと。この時にかけるのが手間なんです。お客さんを想い、その人を思い浮かべて手作業で時間をかけて、心を添えてやるわけです。それが手加減。

想いを込めるって大切なんですね。

よくそんなことをされますねと言われることもありますが、昔の人たちはみんなやってきているんです。例えば、お寿司屋さんのカウンターに一人の社長と一組のカップルがいたとします。ここで職人さんは社長に対して「お酒を飲みにきたんだな」って考える。カップルは「一緒にご飯を食べにきたんだな」と考える。そうすると、同じ寿司を出すにしても出す前に社長に対してはお寿司でお腹いっぱいにならないようにシャリを少なめに、カップルに対してはお腹いっぱいになってもらえるようにシャリを多めにする。これが手加減なんです。
京都のわらびもちは売れる直前まで、きなこともちを分けている。買ってくれる人の顔を見て、その人を思い浮かべて手加減するんです。お客さんの目の前で仕上げるから偽りのないちょうど良い加減になります。
こうしたことの文化を理解している人間が「意地」を持って伝え続けていき、包丁は切れ味の持続力(維持)が大切と想い、私は本刃付けを通してこのことを伝えていくことを使命だと思っているわけです。

なるほど、大変勉強になりました!!ありがとうございました!

廣瀬社長の話から京都に根付く日本文化の良さを教えていただきました!自分も守りや始末の心を意識して行きたいです!ありがとうございました!!