お庭の向こうに居られる人を意識する-小川社長に学ぶ-

小川 勝章(おがわ かつあき)

御庭植治株式会社 代表取締役
生年:1973年

小川社長、本日はよろしくお願いいたします!

よろしくお願いします。

小川社長の生い立ちはどのようなものだったのでしょうか?

うちは代々お庭の仕事を請け負っているので、子どもの頃からお庭の仕事を見ていました。親から仕事を継ぐよう言われたことはなかったのですが、将来は自分も庭師になるんだと思っていました。その頃、代々受け継ぐ家業を大切にしている家の子どもの多くもそう考えていたので、別に不思議なことではなかったです。

小学校の頃、他に夢はなかったのですか?

一応ありましたよ。小学校の頃は夢が3つありました。警察官、ケーキ屋さん、お庭の仕事を継ぐことの3つです。でも、誰かに夢を聞かれると庭師って答えていました。今思えば、責任感や大人が求める模範解答に従っていた部分があったのではないかと思います。

他の道を考えることはありませんでしたか?

大学の進路選択の時や、大学在学中に思うことはありましたが、結局お庭の仕事から離れることはありませんでした。この仕事のお陰で素敵なご縁に恵まれ、色々なところからお声がけいただけるので、この仕事を選んでいて幸せだと思っています。

高校や大学の時はお庭の仕事はされていたのですか?

私は高校の時から庭仕事のアルバイトをしていました。ただ、その時にしていたのは技術を要する仕事ではなくて、お掃除しかさせてもらえませんでした。怖かったですよ。

怖かった……?

私たちが行くお庭には、毎日行くお庭もあれば、1年のうち1日しか行かないお庭もある。例えば1日しか行かないお家であれば、364日はそこの奥様或いはお手伝いの方がお掃除をされる、ということ。その中でバイトの私が1日だけ入るわけです。しかもお金をいただいて。奥様方から厳しい視線で見られることもありました。

当時はお庭の仕事をどう捉えていたのですか?

アルバイトを始めた当初は人の目線が気になりましたね。作業着を着て、泥だらけになって……スーツを着て仕事をする人たちとは違うなと感じていました。でもその一方で、お庭の仕事がない生活を考えられなかったのも事実です。

そうだったのですね。その時に身につけたことは今に活きていますか?

すごく役に立っています。当時は一輪車で土砂を運んでいました。重機の入らない奥まった現場では、スコップで土を拾い上げて一輪車に入れ、長い距離運んで、全部降ろしての繰り返しでした。「帰りは軽くて楽だなあ」とか「一輪車で運ぶのは無駄だなあ」と思っていました。でも実は仕事としてすごく大事な学びでした。落ち葉の掃除も竹箒で掃いたり、自分の手で拾ったり抜いたりしていました。今はブロアー(送風機)を使いますが、掃除の基本を身につけたお陰で、機械に使われることなく機械を使い、場面場面に合った掃除を目指せます。

お庭の仕事は、昔と今では全然違うのですね。

お庭の仕事をしていて思うのは、お庭の仕事はかつての人間の生活に近いところが結構ある、ということですね。自然の移り変わりを感じ、自然に触れる仕事ができるのはありがたいと思っています。

仕事をするときに意識していることは何かありますか?

お庭の向こうに居られる人を意識しています。お庭を通して、人に幸せを届けることが仕事なので、その人が少しでも幸せになれるように、と考えながら作っています。

なるほど。そうした想いを考えるときに大切にしていることはありますか?

当事者意識を持つことですね。お庭には作らせた人や作った人の意思が宿ります。そうしてお庭を見ていると、?とか!と惹きつけられることがあります。「あれ?なぜこの場所にこの大きさの石が置かれているんだろう!」という疑問から生じる、ちょっとした違和感です。直ぐに導け出せずとも、その答えが分かった時、当事者である作らせた人や作った人の意思が現れます。

違和感に気づくことって大事なのですね!

時間が経つと、その違和感に気づきにくくなることもあるんです。時間をかけて考え抜かれたお庭も、なんとなく作ったお庭も、時間が経って苔むすといい感じにお庭が馴染む。それが自然の優しさだと思います。

自然の力ってすごいのですね。

お庭は人の人生と繋がっているな、と感じることがよくあります。人が生きる時間軸とお庭が生きる時間軸は違いますけど、例えば人は生きてく中で獲得していく時もあるけど、手放して行かざるを得ない時もある。
同じように、お庭にも常に成長することが良しとする時と、だんだん成長することが難しくなってくる時があります。決してネガティブな意味ではなく、お庭は植物園でもなく、自然そのものでもないので、大きく立派に育てれば全てが良い、というわけではありません。お庭を作ったときに、「0歳、100歳、一番お庭がベストな状態になるのはいつですか」と聞かれることがあるけど、それは「人間生きてきて一番ピークはどこですか」っていう質問と似ています。

なるほど、何をもって良いお庭というのか、難しいですね。

お庭で大事なのは、単体の木や石ではなくて、全体としてのバランスを大事にすることです。人とお庭の関係性をどう保つか、どう変えていくか。個人宅のお庭であっても、家族構成が変わることがあります。お庭はご家族とともに同じ時間を刻むので、お庭もそれに合わせて形を変えながら、そのご家族の物語が語り続けられたらいいな、と思います。
お庭は時間を繋げる役目があるので、私がお庭に手を入れるときは、そのお庭の歴史を大事にし、更地の場合でもそこに住んでいたご家族の歴史や地域の歴史を大切にしています。「お庭の持ち主が家族に、『ここに立って池を見てごらん。東山から昇る朝日がきれいだよ』とほほ笑む姿に想いを馳せて、次の世代に繋がるお庭を残せていけたらいいなと思っています。

当事者意識を持ち、作るものの奥にいる人の想いを慮る心。小川社長のお言葉には、自分がこれから何かを創作していくにあたり必要なものがたくさんありました。小川社長、ありがとうございました。