深海魚との共通点-亀井社長に学ぶ-

亀井 邦彦(かめい くにひこ)

株式会社ゑり善 代表取締役社長
生年:1952年

亀井社長の生い立ちについて教えていただきたいです!

長年に亘り京呉服『ゑり善』を生業とする家に生まれましたが、若い頃はのんびりしていましたよ。高校生の頃からアーチェリーをしていて、ほぼ毎日練習場で過ごしていました。大学生の時も同じように過ごしていて、気づいたら周りのみんなが就職活動をしてた、そんな感じです。(笑)

そうだったんですね!大学卒業後の進路はどうされたのですか?

今の店の基礎をつくった祖父より「商いのことは会社の中でいくらでも学べるが、経営者として数字がわからなければ話にならない」と諭され、ご縁のあった公認会計士の先生の事務所でしばらくお世話になりました。

会計のお仕事は大変でしたか?

そうですね。伝票の束を渡されて「試算表を作って」って言われて、伝票を見てそろばんを入れてゆくんだけど、これが何遍入れても数字が合わない。(笑)経済学部だったので簿記の授業は受けていましたが、苦労しましたよ。

会計事務所にはどのくらいいたのですか?

5年間と先生から言われていたのですが、可愛がっていただいていた先輩の公認会計士の方に「会計の仕事で食っていくのでなければ、もうそろそろ帰った方が良いよ」と助言頂き、3年目の秋に退社させて頂きました。当時専務として会社を切り回してくれていた伯父に入社の相談をしたところ、「海外旅行に行ったことあるか?」と聞かれ、「ない」と答えたら「任せる仕事の準備ができるのは春やから。それまで海外に行ってこい」と言われて当時一番安かった大韓航空のキャンセル待ちのチケットで10月からアメリカに行きました。45年前ですね。

アメリカに行かれたのですね!

全米をバスで回っていたのですが、12月の下旬にその伯父が急死致しました。すぐに帰ろうと思ったのですが、「帰っても間に合わないから」と言われて2月までアメリカで過ごしました。伯父からは「入社してきたら伝えなあかんことがたくさんあるんや」と言われていたので、ゆっくり話す機会を持てなかったことが今でも残念です。

伯父様はどういう意図で海外を勧めたのでしょうか?

私もはっきりとは分からないのですが、ずっと京都にいたので、「いっぺん世界を見てみるといい」ということだったのかな、と思っています。

アメリカではどんなことを体験されたのですか?

バスで色々なところに行きながら、たくさんの人とコミュニケーションを図りました。大学生まで英語を勉強してきたのですが、実際に英語を使う国に行ってみると、全然聞き取れなくて。言いたいことの10分の1も伝えられなかったのではないかと思います。そんな中、聞き手には2つあるなと思ったんです。それは「一生懸命聞いてくれる人」と「バカにする人」。一生懸命聞いてくれる人はどんな人かというと、文化の高い人だってことがわかったんです。

文化の高い人?

例えば、私がアメリカに行った45年前は、日本のことを知ってる人と、単にアジアと一括りにする人がいました。文化の高い人は、日本のバックボーンを理解しようとする人だということがわかりました。そしてそういう人は揃って、よく話を聞いてくれました。

アメリカでの体験が目に浮かびます!京都に戻ってきた後はどうされたのですか?

すぐに東京の店に配属され、営業を経験した後京都に帰ってきました。長いこと商いを続けさせて頂いてるせいか、東京に比べるとゑり善のことをご存知頂いている方も多く心強い反面、羽目を外せないな、と始めは少し窮屈に感じました。

羽目を外せないというのは窮屈ですね……ゑり善は創業から430年以上も続いている会社ですが、そんな会社を継ぐことになった時、プレッシャーはありませんでしたか?

当時はそれほどプレッシャーを感じていませんでした。これは、深海魚が水圧を感じていないのと同じことだと思うんです。違う環境からここにきたら、そりゃ責任を感じると思うのですが、私の場合はそういうもんだと思っているから、逆に今の方が「自分の代で会社を畳んだらどうしよう」と危機を感じているくらいです。(笑)

なるほど!深海魚の例えはすごくわかりやすいです!亀井社長から見て、会社がここまで長く続いてきたのはどうしてだと思いますか?

もちろん、続くべくして続くところもあるのでしょうが、私は偶然や様々なご縁のおかげで続いて来たのだと思っています。物事には因果があって、「こうすれば、こうなる」ということは確かにあるのかもしれないのですが、説明がつかないものもたくさんある。「こうしたから続いてきた」と後付けはいくらでもできますが、多分同じことをしたから続くわけでもないと思います。説明がつかない中で1つ1つのご縁や物事に対して丁寧に向き合って来たからこその今だと考えています。

1つ1つと向き合う。その結果が430年以上という長い歴史に繋がっているのですね!
最後に大学生に向けてメッセージをお願いします!

東京で営業をしていた時のことなのですが、お客さんに「京都の夏はとても暑くて冬は寒いんだよね」や「京都の家って年末年始は行事が多いんだよね、お宅も大変でしょ」と言われることがありました。はじめの頃は、「いや、それほどでもないんですよ」と答えていたんですよね。自分の知っていること、感じていることをそのまま伝えようと思って。でも、ある時それは違うなと感じたんです。「お客さんはそう思っている」というだけではなくて、「そうあって欲しい」と思っている。だから、私がそこで否定をしてしまうと相手のイメージを壊してしまうことになるな、と。その相手の奥にある想いを感じ取ることが、この場合は「そうなんですよ。ほんと大変なんですよ!」とお応えすることが、お客さんに喜んでいただくために必要なことだと思いました。それって結局どれだけ心にゆとりを持って、広い理解ができるか、ということだと思うんです。だから大学生のみなさんも色々な人のイメージを感じ取るために、たくさんのことに興味を持って広い視野を持つことが大事なのかなと思います。そのためにも、色々な人と付き合って様々な体験をしてください。そんな日々の小さな積み重ねが、きっと後の大きな財産となりますよ。

心のこもった声で優しく話しかける社長が印象的でした。色々な経験をしたからこそ見えている景色をたくさん教えてくださってありがとうございました!