南部 邦男(なんぶ くにお)
株式会社ナベル 取締役会長
生年:1948年
「日野くんの生きる意味は何?」取材冒頭に南部会長から問われた。僕はその問いに対して答えられずにいると、南部会長が「死ぬことを身近に感じないと、本当の幸せなんてわからない。日本もかつてはみんな生きるのに必死だった。けれど、当時じゃ考えられないほど豊かになった今、多くの人は生きる意味を問わなくて良くなっている。それを考えている人と考えていない人では、1日1日の喜びが全然違う」と仰った。そんな南部会長の「生きる意味」とは何なんだろうか?
生きる意味……確かに僕らの時代はそういったことを考える人が少ないのかもしれません。
南部会長の生い立ちはどのようなものだったのですか?
私が生まれたのは戦後間もなくでした。その頃は衣食住共に世の中全体が非常に苦しい時代でした。私の家庭も御多分に洩れず貧乏でしたが、それが当たり前だったので、貧乏であることに対して恥ずかしさや引け目はなかったですね。16歳の時に家業が倒産し、お金がなかったので高校2、3年生の時には家庭教師をして稼いでいました。当時は1人で10人以上は教えたかな。
10人以上!?考えられないです。
無理していたんでしょうね。やがて身体の方が耐えられなくなって、高校3年生の時に十二指腸潰瘍とその出血で再生不良性貧血という病気で死にかけたんです。奇跡的に今こうして生きているのですが。
壮絶な人生ですね……
実は、死にかけたのは一度だけじゃないんです。30歳の時にも手術をして、その時にも死にかけています。ここまでくると「生きている」、というよりは「生かされている」って感じがするんです。実際に臨死体験もしたのですが、運良くこの世に戻ってこれました。
神様に「この世に貢献して次の世代にバトンタッチしなさい」と言われている気がしています。
そうした捉え方ができるのはすごいです。
実際そう感じているのもありますが、これは「解釈力」の問題だと思うんです。
解釈力…….?
人生において色々な出来事がありますが、それをどう解釈するかは人によって違いますよね。私の場合、どんな出来事も自分を育てるための大切な試練だと思っています。16歳の時に家業が倒産したことも、素晴らしい出来事だと受け取っていますし、自分が2度死にかけた経験は何かのメッセージのようにも思えます。身の上に起こることはすべて人生の経験として有り難く受け止めています。
そういう風に解釈できるようになったきっかけを教えてください!
最初のきっかけは小学校4年生の頃かな。叔父に勧められた本を読んでいて、文中に戦国時代の武将、山中鹿之助が三日月に祈った言葉「我に七難八苦を与えたまえ」があってね。その言葉を見たとき、ずっと自分が求めていた言葉に出会った気がしました。
苦労を迎え入れ、それを乗り越えて成長しようとする、という意味ですよね。
私が3歳の時、拝み屋さんが母親に「この子はきっと将来みんなのためになるから大事に育てなあかん」と言っていました。父方の祖母が母親に「この子はあなたを大事にしてくれるから大切に育てなよ」とも言っていたそうです。身近な人からの期待を感じられたから、頑張ろうと思ったのでしょう。
そうして今までの人生を乗り越えてこられたんですね。そんな南部会長の「生きる意味」とは何ですか?
それは、今の世界を、世の中を、少しでも良くすることです。そのために今自分ができることは「若い人たちに経験の機会を与えること」だと思い、『一枝会(若い世代が海外体験できるプログラム)』を創設しました。
世の中を良くするための一つとして一枝会をされているのですね!私も一枝会に参加したいです(笑)。
20代のうちに知っておいたら良いこと、やっておいたら良いことがあれば教えてください!
人のために何かをしてほしい。災害地のボランティアや目の悪い人が困っていたら手を添える……何でもいい。自分のためじゃない充実感があるので、20代のうちに体験しておいてほしいなと思います。
ありがとうございます!それでは最後に、大学生にメッセージをお願いします!
好きな仕事を探すよりも、偶然与えられたものを好きになる努力をしてほしいですね。もしも自分が何に向いているのかわからない、何がしたいかわからないんだったら、何もしなかったら良いと思います。そのうち何かしたくなってくるんじゃないかな。焦る必要はありません。自分の直感を信じて、生きていってほしいなと思います。